数式と建築そして断面
学生の頃、図書館の課題のスタディを粘土でやって、材料が余ったので試しに日本の
名作を幾つか作ってみたことがありました。具体的には塔の家と中野本町の家。
セレクトした理由はともに形状がマッシブで作りやすいのではないかという点だけ。
塔の家はともかく、中野本町の家は自分の課題と全く違っていました。それは造形ではなく
あえて例えれば数式だった。人間の情念は入り込む余地はなく、デザインというのも違う。
中野本町の家の設計者の伊東豊雄と同年代の安藤忠雄も同様な設計をする人だった。
住吉の長屋、小篠邸、城戸崎邸。ただ彼の場合内部にコンクリートを残して抽象化は避けた。
伊東さんの実質的な師匠は篠原一男で、当初は数学を専攻していたのは有名です。
その住宅は平面に正方形を多用することが特徴ですが、それ以前のデビュー作の
久我山の家は、特に立面が数式そのものです。
建築というのは平面図が重視されがちです。断面は実際ほとんど見向きもされない。
なぜなら敷地面積が十分にあれば平面はほとんど自由だし、
そしてたいがいの仕掛けは平面図に反映することが出来る。
手元に日本の現代住宅1985−2005という展覧会のチラシで123の住宅の平面図がひと目で
見られるのですが、数式的だと感じるのは妹島和世、石田敏明、入江経一、西沢立衛
といずれも篠原、伊東の影響下にある人物に限られています。
一方、立面、断面をシステマティックにではなく、またデザインでもなく
数式のように表すのは意外と難しい。おそらく歴史上初なのはカサ・デル・ファッショ。
その後に続いているのはせいぜいアイゼンマンとコールハースくらいではなかろうか。
平面と比べて断面に関しては人間の寸法や能力、重力、外部からの法規などと制約だらけです。
篠原も後期に再び断面の数式化にとりかかり、日本浮世絵博物館、ヘルシンキ現代美術館案、
ユーラリール計画案などを残していますが、あまり成功しているとはいえない。
このところ、CAD性能がアップして3Dで設計できるようになってからようやく
平面と断面が同じ地平に立とうとしています。藤本壮介のような元から3Dで考える
頭を持った人物も出てきています。ぼくも余生は断面を意識した計画をしてみたい。
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